労務費に関する基準 注文者が気を付けるべき事項について解説
谷澤 萌花
行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業許可をはじめとする各種許認可手続きを担当。建設業許可や経営事項審査の手続き担当先は100社超。許認可手続きだけでなく、外部セミナーや建設業者での研修講師など、建設業者のコンプライアンス指導・支援業務にも携わっている。
令和7年12月12日に施行された改正建設業法により、労務費の取り扱いに関する規定が強化されました。
建設現場の人材確保等が重視される中、注文者にはこれまで以上に適正な労務費を尊重した取引が求められています。
今回は建設業における労務費の取り扱いについて、注文者が注意すべき主要なポイントをご説明します。
令和7年12月12日施行 建設業法の主な改正内容
以下は令和7年12月12日に施行された建設業法の主な改正内容です。
建設工事の見積り等
従来の見積りの作成に関する事項に加え、さらに適正な労務費の確保に繋げるための定めが設けられました。
受注者が適正な労務費の基準に基づいて作成した見積書について、注文者が通常必要と認められる材料費等の額を
著しく下回ることとなるような変更を求めた場合は建設業法違反となるおそれがあります。
建設業法第二十条の六
建設工事の注文者は、第四項の規定により材料費等記載見積書を交付した建設業者(建設工事の注文者が同項の請求をしないで第一項の規定により作成された材料費等記載見積書の交付を受けた場合における当該交付をした建設業者を含む。次項において同じ。)に対し、その材料費等の額について当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならない。
注文者が気を付けるべき事項
労務費に関して、注文者の義務と、注意すべき主な事例について解説します。
なお、ここで言う注文者とは発注者だけでなく、元請業者も含みます。
建設工事の最初の請負契約の依頼者(施主)のことを指す発注者と異なり、建設工事の各請負契約におけるすべての依頼者が対象となりますのでご注意ください。
発注者と注文者の違いについて詳しくはこちらの記事で解説しています。→「発注者とは?発注者と注文者の違いについて建設業法を基に解説」
見積りの尊重と受注者への配慮義務
今回の改正により、受注者が作成した見積書の内容を十分に考慮する努力義務が注文者に
課せられました。
建設業法第二十条の四
建設工事の注文者は、建設工事の請負契約を締結するに際しては、当該建設工事に係る材料費等記載見積書の内容を考慮するよう努めるものとし、建設業者は、建設工事の注文者から請求があつたときは、請負契約が成立するまでに、当該材料費等記載見積書を交付しなければならない。
上記のように通常必要と認められる労務費等を著しく下回る金額に見積の変更を依頼することや、
通常必要と認められる原価に満たない額で契約を行うことは建設業法違反となるため注意が必要です。
【具体例】見積金額の減額を行う場合
受注者に対して値引き等の価格交渉を行うことや、妥当でない見積金額の変更を依頼をすること自体は問題ありません。
しかし、合理的な根拠のない一律一定比率の減額を行うように依頼したり、
通常必要と認められる原価等を下回るような減額は建設業法違反の可能性があるため注意が必要です。
【具体例】取引先との間で取引単価を定めている場合
長年取引関係にある受注者との間で、一定の単価を定めている建場合において、数年にわたって単価の見直しを行っていない場合は注意が必要です。
単価を設定した時点では適正な労務単価を含んだ単価であっても、労務単価が上昇している現在においては、
当時の単価が適正な労務費の金額を満たさなくなっている可能性があります。
長年の付き合いがある先であっても、定期的に単価の見直しと改定を行うことを心がけましょう。
【具体例】通常必要と認められる額を下回る労務費の見積書を受け取った場合
注文者が見積金額の減額等を依頼していないにも関わらず、受注者が労務費の基準を著しく下回る金額の見積書を提示してくるケースが考えられます。
このようなケースにおいて、当該見積書をもとに請負契約を締結したとしても建設業法違反とはなりませんが、
受注者に意図を確認した上で金額が不適正と判断した場合には「駆け込みホットライン」等に通報することが望ましいとされています。
受注者に対して合理的根拠のない見積金額の減額を依頼していなくとも、注文者として労務費に関する知識をしっかりと持ち、
適正な労務費の確保に向けた積極的な行動が求められています。
まとめ
注文者として労務費に関する事項をきちんと理解しておくことで、建設業法違反の状態を未然に防ぐことに繋がるほか、
受注者との信頼関係を強化することにも繋がります。
現在の見積書の確認から請負契約の締結までの一連の流れを見直し、
適切な労務費の確保に向けた取り組みを行うことができているか今一度ご確認ください。
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