建設業法第19条の5「著しく短い工期の禁止」他解説
社員行政書士・東京事務所所長
大野裕次郎
建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。
記事更新日:2020年10月1日
本記事は、2020年10月1日に施行された改正建設業法に関する規定の解説です。
条文の確認
(建設工事の請負契約の内容)
第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一~三 (略)
四 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
五~十六 (略)
(著しく短い工期の禁止)
第十九条の五 注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い工期とする請負契約を締結してはならない。
(建設工事の見積り等)
第二十条 建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じ、工事の種別ごとの材料費、労務費その他の経費の内訳並びに工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならない。
2・3 (略)
(工期等に影響を及ぼす事象に関する情報の提供)
第二十条の二 建設工事の注文者は、当該建設工事について、地盤の沈下その他の工期又は請負代金の額に影響を及ぼすものとして国土交通省令で定める事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに、建設業者に対して、その旨及び当該事象の状況の把握のため必要な情報を提供しなければならない。
著しく短い工期の判断基準について
著しく短い工期であるかどうかについては、工事の内容や工法、投入する人材や資材の量などにより一律に判断することが困難であるため、以下のような方法で許可行政庁が工事ごとに個別に判断することとなります。
- 休日や雨天による不稼働日など、中央建設業審議会において作成した工期に関する基準で示した事項が考慮されているかどうかの確認
- 過去の同種類似工事の実績との比較
- 建設業者が提出した工期の見積りの内容の精査
工期に関する基準
工期に関する基準はこちらをご覧ください。国土交通省「工期に関する基準の実施を勧告」
概要は以下のとおりです。
第1章:本基準を作成した背景や、建設工事の特徴、請負契約及び工期に関する考え方(公共、民間(下請契約含む))、本基準の趣旨及び適用範囲、工期設定に受発注者の責務を記載
第2章:自然要因や休日・法定外労働時間、契約方式、関係者との調整、行政への申請、工期変更等、工期全般にわたって考慮すべき事項を記載
第3章:準備段階・施工段階・後片付け段階の各工程において考慮すべき事項を記載
第4章:民間発注工事の大きな割合を占める4分野(住宅・不動産、鉄道、電力、ガス)の分野別の考慮事項を記載
第5章:働き方改革・生産性向上に向け、他社の優良事例を参考にすることが有効である旨を記載
第6章:本基準を運用するうえで考慮すべき事項等を記載
著しく短い工期の禁止に違反した場合の措置
- 注文者(発注者or元請)が著しく短い工期による契約を締結
- 受注者(元請or下請)から違反の疑いを許可行政庁へ通報
- 許可行政庁は、著しく短い工期で契約を締結した発注者に対して勧告を行う
建設工事の注文者が建設業者である場合は、勧告や指示処分を行う
出展:国土交通省 「新・担い手三法について~建設業法、入契法、品確法の一体的改正について~」
工期に影響を及ぼす事項の例
土地取得の経緯や近傍の事象により、その可能性について注文者が承知している以下のような事項です。
これらの事項については、請負契約を締結するまでに、受注者となる建設業者に対して、その旨及び当該事象の状況の把握のため必要な情報を提供しなければなりません。
- 地中の状況等に関する事項
・支持地盤深度
・地下水位
・地下埋設物
・土壌汚染 等 - 周辺環境に関する事項
・近隣対応
・騒音振動
・日照阻害 等 - 設計に起因する調整に関する事項
・設計図書との調整
・設計間の整合 等 - 資材の調達に関する事項
注文者があらかじめ知っているこれらの情報を建設業者に提供することにより、施工における手戻りを防止し、働き方改革の取組みを促進することも狙いです。
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