建設業法令遵守ブログ

【建設業法】関連コラム

アイディホーム建設業許可の自主廃業

大野裕次郎

社員行政書士・東京事務所所長

大野裕次郎

建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。

令和4年9月15日、飯田グループホールディングスのアイディホーム株式会社が建設業許可と宅建業免許を自主廃業したと発表しました。テレビCMなども流していた会社であるため、急に飛び込んできたニュースで驚きましたが、何が起こったのか見ていきましょう。

なぜ「自主廃業」した?

以下、アイディホームが公表した文書です。HPから引用しています。

弊社の元役員が、道路交通法違反(スピード違反)で執行猶予付き有罪判決を受けていたものの会社への報告を怠っておりました。本件の発覚により、弊社は宅建業免許ならびに建設業許可の欠格事由に該当していることを認識し、発覚日と同日、当該元役員は役員を辞任し、翌営業日には監督官庁への報告を行いました。その後、弊社において検討した結果、本件の重大性にかんがみ、宅建業免許ならびに建設業許可を自主的に廃業するのが妥当と判断するに至り、監督官庁に対して当該免許ならびに許可の廃業の届出を行った次第です。(出典:アイディホーム株式会社HP https://www.idhome.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/20220914_info.pdf)

元役員が道路交通法(スピード違反)で執行猶予付き有罪判決を受けていて、それが欠格要件に該当していたとのことです。宅建業免許に関して記述すると長くなってしまいますので、建設業許可についてのみ、解説をしていきたいと思います。

建設業許可の欠格事由とは?

欠格事由とは、「その事由に該当すると建設業許可を受けることができない」という建設業許可の要件です。建設業法第8条に定められています。

第八条 国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次の各号のいずれか(許可の更新を受けようとする者にあつては、第一号又は第七号から第十四号までのいずれか)に該当するとき、又は許可申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、許可をしてはならない。
一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
二 第二十九条第一項第七号又は第八号に該当することにより一般建設業の許可又は特定建設業の許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者
三 第二十九条第一項第七号又は第八号に該当するとして一般建設業の許可又は特定建設業の許可の取消しの処分に係る行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十五条の規定による通知があつた日から当該処分があつた日又は処分をしないことの決定があつた日までの間に第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出をした者で当該届出の日から五年を経過しないもの
四 前号に規定する期間内に第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出があつた場合において、前号の通知の日前六十日以内に当該届出に係る法人の役員等若しくは政令で定める使用人であつた者又は当該届出に係る個人の政令で定める使用人であつた者で、当該届出の日から五年を経過しないもの
五 第二十八条第三項又は第五項の規定により営業の停止を命ぜられ、その停止の期間が経過しない者
六 許可を受けようとする建設業について第二十九条の四の規定により営業を禁止され、その禁止の期間が経過しない者
七 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
八 この法律、建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるもの若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)の規定(同法第三十二条の三第七項及び第三十二条の十一第一項の規定を除く。)に違反したことにより、又は刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四条、第二百六条、第二百八条、第二百八条の二、第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
九 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から五年を経過しない者(第十四号において「暴力団員等」という。)
十 心身の故障により建設業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの
十一 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は次号(法人でその役員等のうちに第一号から第四号まで又は第六号から前号までのいずれかに該当する者のあるものに係る部分に限る。)のいずれかに該当するもの
十二 法人でその役員等又は政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者(第二号に該当する者についてはその者が第二十九条の規定により許可を取り消される以前から、第三号又は第四号に該当する者についてはその者が第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出がされる以前から、第六号に該当する者についてはその者が第二十九条の四の規定により営業を禁止される以前から、建設業者である当該法人の役員等又は政令で定める使用人であつた者を除く。)のあるもの
十三 個人で政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者(第二号に該当する者についてはその者が第二十九条の規定により許可を取り消される以前から、第三号又は第四号に該当する者についてはその者が第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出がされる以前から、第六号に該当する者についてはその者が第二十九条の四の規定により営業を禁止される以前から、建設業者である当該個人の政令で定める使用人であつた者を除く。)のあるもの
十四 暴力団員等がその事業活動を支配する者

新規で建設業許可を受けようとする者が、これらの第1号から第14号のいずれかに該当する場合は、建設業許可を受けることはできません。既に建設業許可を受けている建設業者である場合、第1号又は第7号から第14号までのいずれかに該当している場合は、建設業許可の更新をすることが出来ません。というより、欠格事由に該当した場合、建設業法第29条の規定により「許可の取消し処分」となってしまいます。

(許可の取消し)
第二十九条 国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該建設業者の許可を取り消さなければならない。
一 一般建設業の許可を受けた建設業者にあつては第七条第一号又は第二号、特定建設業者にあつては同条第一号又は第十五条第二号に掲げる基準を満たさなくなつた場合
二 第八条第一号又は第七号から第十四号まで(第十七条において準用する場合を含む。)のいずれかに該当するに至つた場合
(以下省略)

本来は欠格事由に該当したら許可取消処分となるのですが、アイディホームは許可取消処分となる前に自主的に廃業の届出した形なのでしょうか。許可行政庁の今後の動きにも注目しておきたいところです。

スピード違反は欠格事由に該当する?

スピード違反は道路交通法違反となります。まずは道路交通法の条文を見てみましょう。

(最高速度)
第二十二条 車両は、道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては政令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。
2 路面電車又はトロリーバスは、軌道法(大正十年法律第七十六号)第十四条(同法第三十一条において準用する場合を含む。第六十二条において同じ。)の規定に基づく命令で定める最高速度をこえない範囲内で道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路においては当該命令で定める最高速度をこえる速度で進行してはならない。
(罰則 第百十八条第一項第一号、同条第二項)

赤字部分は、制限速度を超えて走行してはダメですよ。ということが規定してあるのですが、運転免許を取得した人であれば当然知っていることですね。では、この規定に違反した場合の罰則は何になるか見ていきましょう。こちらも道路交通法の条文です。

第百十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第二十二条(最高速度)の規定の違反となるような行為をした者
(以下省略)

道路交通法第22条に違反した場合は、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金となります。アイディホームの元役員は、執行猶予付き有罪判決を受けたとのことですので、スピード違反により「6月以下の懲役」刑が科されたのだと思います。

ここで改めて建設業法第8条の建設業許可の欠格事由の第7号を見てください。

七 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者

禁固以上の刑に処せられた場合は、欠格事由に該当することになります。

刑罰の重さを順番に並べると、死刑>懲役>禁錮>罰金>拘留>科料、となりますので、アイディホームの元役員が懲役刑が課されたと考えると、禁固以上の刑であるため、欠格事由に該当しているということになります。

まとめ

以上のことから、アイディホームは、元役員のスピード違反により、建設業許可を廃業せざるを得ない状況に至ったということが分かりました。役員がスピード違反を起こしただけで(という言い方は適切ではないかもしれませんが)、建設業許可の欠格事由に該当し、建設業許可が取り消されることとなります。建設業許可を維持し、会社を存続させるためには、建設業法令の遵守だけでなく、日常から様々な法令を意識しなければならないことが分かる事例です。

拙著「建設業法のツボとコツがゼッタイにわかる本[第2版]」においても、第7章「2 役員が交通事故を起こしたら、建設業許可は取り消されるの?」で、道路交通法違反による許可取消し処分について触れていますので、是非ご覧ください。