下請業者の社会保険等加入を確認する方法
社員行政書士・東京事務所所長
大野裕次郎
建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。
元請業者は請け負った建設工事におけるすべての下請業者に対して、適正な契約の締結、適正な施工体制の確立、雇用・労働条件の改善、福祉の充実等について指導・助言その他の援助を行うことが期待されており、社会保険等の加入に関しても、下請業者に対する指導等の取組を講じる必要があります。
しかしながら、社会保険等の加入に関して下請業者の指導・助言の必要性を理解している元請業者様でも、「そもそも、下請業者が社会保険に加入しているか、どうやって確認するのか?」というご相談をいただくこともあります。同じような疑問をお持ちの方に向けて、下請業者の社会保険等の加入の確認方法についてご説明します。
社会保険等の加入の確認方法
社会保険等の加入の確認方法としては、次の方法が挙げられます。
【1】建設キャリアアップシステム
【2】再下請負通知書
【3】作業員名簿
【4】その他
それぞれのどのように確認するか具体的な方法を見ていきましょう。
【1】建設キャリアアップシステム
実は、建設キャリアアップシステムの事業者登録申請時には、社会保険等に加入していることを証明する資料 が求められます。そのため、建設キャリアアップシステムに登録されていることを確認するだけで、社会保険等の加入の確認が完了します。
つまり、建設キャリアアップシステムに登録されている下請業者を選定すれば、それだけで社会保険等に適正に加入している下請業者を選定していることになります。
【2】再下請負通知書
施工体制台帳の作成が義務付けられる建設工事において、再下請負がなされる場合には、発注者から直接建設工事を請け負った元請業者に対して下請業者から再下請負通知書が提出されることになります。
再下請負通知書には、「健康保険等の加入状況」の欄があり、健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の加入状況に関する事項を記載することとされていることから、元請業者においては、再下請負通知書を活用して下請業者の社会保険の加入を確認することができます。
【3】作業員名簿
令和元年度の建設業法等の一部改正により、実質的に作業員名簿の作成が義務化されました。各作業員の加入している健康保険、年金保険及び雇用保険の加入状況に関する事項を記載することされています。
この作業員名簿を活用することで、建設工事の施工現場で就労する建設労働者について、保険加入状況を把握することが可能です。
元請業者は、新規入場者の受け入れに際して、各作業員について作業員名簿の社会保険欄を確認することが大事です。各作業員の保険加入状況の確認を行う際には、建設キャリアアップシステムの登録情報を活用し、同システムの閲覧画面等において作業員名簿を確認して保険加入状況の確認を行うことが原則とされています。
建設キャリアアップシステムを使用せず、社会保険等の加入確認を行う場合は、健康保険証のコピー、標準報酬決定通知書等関係資料のコピーや雇用保険被保険者証のコピー等を提示させるなど、真正性の確保に向けた措置を講ずることとされています。
【4】その他
上記の【1】~【3】以外の方法としては、下請業者に対して、保険料の領収済通知書等関係資料のコピーを提示させるほか、雇用保険については、厚生労働省の労働保険適用事業場検索サイト(http://chosyu-web.mhlw.go.jp/LIC_D)、厚生年金については、日本年金機構の厚生年金・健康保険適用事業所検索システム(https://www.nenkin.go.jp/do/search_section/)において適用状況を確認するという方法があります。
加入していないことが判明した場合
下請業者には、適切な保険に加入している建設業者を選定すべきであり、健康保険、厚生年金保険、雇用保険の全部又は一部について、適用除外でないにもかかわらず未加入である建設業者は、下請企業として選定しないとの取扱いを徹底すべきですが、未加入であることが判明した場合はどのようにすべきでしょうか。
まず、下請契約に先立って、選定の候補となる建設企業について社会保険の加入状況を確認し、適用除外でないにもかかわらず未加入である場合には、早期に加入手続を進めるよう指導を行う必要があります。
また、作業員に関して適切な保険に加入していることが確認できない場合は、特段の理由がない限り現場入場を認めないとの取扱いを徹底すべきです。そして、当該作業員が含まれる作業員名簿を作成した下請業者に対して、作業員を適切な保険に加入させるよう引き続き指導する必要があります。
元請業者は社会保険等の加入だけでなく、建設業法をはじめとする各種法令違反がないように、下請業者を指導義務があります。元請としての責務をしっかり果たすよう守るべき法令等を頭に入れておくことが大切です。
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