建設業法令遵守ブログ

【建設業法】用語解説

主任技術者の設置が不要な「特定専門工事」とは?

大野裕次郎

社員行政書士・東京事務所所長

大野裕次郎

建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。

2020年10月に施行された改正建設業法により、建設現場の生産性向上を目的として、限りある人材の有効活用をするために、一定未満の工事金額等の要件を満たす場合は、下請の主任技術者の設置が不要となりました。

下請の主任技術者設置が不要となるケース

元請負人の立場としては、自社施工分を超える業務量に対応しやすくなるメリットがあり、下請負人の立場としては、受注の機会を確保しやすくなるというメリットがあります。この制度は、建設業法第26条の3で定められています。具体的には以下の図のようなイメージです。

(出典:国土交通省「新・担い手三法について~建設業法、入契法、品確法の一体的改正について~」)

上図では、二次下請B、C、D社に関して、主任技術者の設置不要なケースでしたが、他にも次のような活用ケースがあります。

(出典:国土交通省「新・担い手三法について~建設業法、入契法、品確法の一体的改正について~」)

この下請の主任技術者の設置が不要となる制度の要件に関して詳しく見ていきたいと思います。

設置が不要となるための要件は?

以下の全ての要件を満たした場合、下請の主任技術者の設置が不要となります。

1.対象となる工事が「特定専門工事」であること
2.下請契約の請負代金の額が政令で定める金額未満であること
3.書面での合意があること
4.元請・上位下請の主任技術者が一定の要件を満たしていること
5.再下請をしないこと

  1. 対象となる工事が「特定専門工事」であること
    特定専門工事とは、「土木一式工事又は建築一式工事以外の建設工事のうち、その施工技術が画一的であり、かつ、その施工の技術上の管理の効率化を図る必要があるものとして政令で定めるもの」とされており、現時点では、政令で「鉄筋工事及び型枠工事」と定められています。
  2. 下請契約の請負代金の額が政令で定める金額未満であること
    「下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額。以下この項において同じ。)が政令で定める金額未満」であることが要件とされています。「政令で定める金額未満」は、主任技術者の専任義務が3,500万円以上となっていることを踏まえて、3,500万円未満とされています。
  3. 書面での合意があること
    工事を注文する者(元請や一次下請)と工事を請け負う者(一次下請や二次下請)が以下の事項を記載した書面において合意をする必要があります。この際、注文者(元請であれば発注者、一次下請であれば元請)の書面による承諾を得る必要があります。
    ・特定専門工事の内容
    ・上位下請の置く主任技術者の氏名
    ・当該特定専門工事に係る下請契約の請負代金の額
    ・その他に当該特定専門工事に係る下請契約がある場合は、それらの請負代金の額の総額
  4. 元請・上位下請の主任技術者が一定の要件を満たしていること
    元請・上位下請の主任技術者が次の要件を満たす必要があります。
    ・当該特定専門工事と同一の種類の建設工事に関し一年以上指導監督的な実務の経験を有すること
    ・当該特定専門工事の工事現場に専任で置かれること
  5. 再下請をしないこと
    主任技術者を置かないこととした下請負人は、その下請負に係る建設工事を他人に請け負わせることはできません。なお、違反した場合は、監督処分の対象となります。※主任技術者を置いている(制度を利用していない)下請は再下請可能です。

まとめ

下請の主任技術者の設置が不要となるためには、上記の要件を全て満たさなければなりません。また、現在「特定専門工事」として政令で定められているものは、鉄筋工事型枠工事(建設業許可の業種でいうと大工工事業)です。
まだ、かなり範囲が限定的であるため、活用できる建設業者様は限られると思いますが、せっかく創設された制度ですので、うまく活用して多くの仕事が請け負えるようにしていきましょう。
「特定専門工事」は今後増える可能性もありますので、引き続き注目していきたい制度です。