おそれ情報の通知とは?

社員行政書士・東京事務所所長
大野裕次郎
建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。
令和6年6月14日に公布された改正建設業法では、資材価格高騰による労務費のしわ寄せ防止を目的として、同年12月13日から、資材高騰が生じるおそれがあると認めるときは、請負契約の締結をするまでに受注者から注文者に対して、関連する情報(おそれ情報)を必要な情報として通知しなければならないこととなりました。今回は、「おそれ情報の通知」について解説します。
おそれ情報とは?
建設業法第19条第1項第7号又は第8号における定めによる協議の対象になる事象のうち、受注者の有する知見に基づき事前に予測が可能であって、建設工事の実施に大きな影響を及ぼすものに関する情報のことをいいます。注文者から受注者へ通知する情報と、受注者から注文者へ通知する情報があります。
建設業法
第十九条(建設工事の請負契約の内容)建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
(中略)
七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
八 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及びその額の算定方法に関する定め
注文者から受注者への通知
まず、注文者から受注者への通知です。
注文者は、次の事象が発生するおそれがあると認めるときは、受注者に対して、請負契約を締結するまでに、その旨を当該事象の状況の把握のため必要な情報と併せて通知しなければなりません。
①地盤の沈下、地下埋設物による土壌の汚染その他の地中の状態に起因する事象(文化財保護法に基づく埋蔵文化財調査とその結果に基づく対策等を含む。)
②騒音、振動その他の周辺の環境に配慮が必要な事象
注文者から受注者への通知のポイントは次のとおりです。
- 事象の状況の把握のため必要な情報と併せて通知する
・地盤に関するボーリング調査結果報告書
・土壌汚染調査報告書
・既存建物の建築図面
・近隣住民との工事に関する協定書・要望書など
・発注者が認識している情報 - 書面又はメール等の電磁的方法によること
- ①②以外の情報についても、工事の種類や内容等に応じて注文者自ら判断のうえ任意に通知することは差し支えない
注文者が情報を把握しているにも関わらず、受注者に通知しなかった場合は、建設業法違反となりますので注意が必要です。
受注者から注文者への通知
次に、受注者から注文者への通知です。
受注者は、次の事象であって、天災その他自然的又は人為的な事象により生じる注文者と受注者の双方の責めに帰することができないものが発生するおそれがあると認めるときは、注文者に対して、請負契約を締結するまでに、その旨を当該事象の状況の把握のため必要な情報と併せて通知しなければなりません。
①主要な資機材の供給の不足若しくは遅延又は資機材の価格の高騰
②特定の建設工事の種類における労務の供給の不足又は価格の高騰
受注者から注文者への通知は、注文者に対して請負契約の変更に関する予見可能性を持たせ、適切な請負契約の変更を円滑化することが目的です。
受注者から注文者への通知のポイントは次のとおりです。
- 「主要」かどうかは、工事の施工に当たり数量的にあるいは使用頻度的に大宗を占めるために欠くことのできないこと、工事原価において大きな比重を占めること又は数量若しくは比重若しくは使用頻度が少ないにもかかわらず工事の施工に大きな影響を及ぼすこと等をもって判断する。
- 事象の状況の把握のため必要な情報と併せて通知する。
通常の事業活動において把握でき、メディア記事、資材業者の記者発表又は公的主体や業界団体などにより作成・更新された一定の客観性を有する統計資料あるいは下請業者や資材業者から提出された、過去の同種工事における見積書など価格の上昇がわかる資料等に裏付けられた情報を用いる。 - 書面又はメール等の電磁的方法によること。
- 契約締結時点で未発生の天災その他の自然的事象については、通知が義務づけられる情報とは想定しがたい。
通知については、受注者が把握している範囲で公表資料を示せば足り、おそれ情報の通知のために新たな調査、資料収集等をする必要はありません。
おそれ情報の具体例
おそれ情報の具体例は下表のとおりです。
出典:国土交通省「改正建設業法について~改正建設業法による価格転嫁・ICT活用・技術者専任合理化を中心に~」を引用して加工
資材高騰等が顕在化したときの協議
資材高騰等が顕在化したとき、受注者は、注文者に対して、請負代金変更の協議の申出をすることができます。そして、注文者は、受注者から請負代金変更の協議の申出があった場合は、誠実に協議に応じる義務があり、請負代金を変更しない場合でもその理由を説明する必要があります。
なお、受注者は、注文者に対しておそれ情報を通知していない場合でも、変更協議の申出は可能です。
まとめ
- 「おそれ情報」とは、受注者の有する知見に基づき事前に予測が可能であって、建設工事の実施に大きな影響を及ぼすものに関する情報のこと
- 注文者から受注者への通知の対象となる事象
①地盤の沈下、地下埋設物による土壌の汚染その他の地中の状態に起因する事象(文化財保護法に基づく埋蔵文化財調査とその結果に基づく対策等を含む。)
②騒音、振動その他の周辺の環境に配慮が必要な事象 - 受注者から注文者への通知の対象となる事象
①主要な資機材の供給の不足若しくは遅延又は資機材の価格の高騰
②特定の建設工事の種類における労務の供給の不足又は価格の高騰 - 資材高騰等が顕在化したとき、受注者は、注文者に対して、請負代金変更の協議の申出をすることができ、注文者は、受注者から請負代金変更の協議の申出があった場合は、誠実に協議に応じる義務があり、請負代金を変更しない場合でもその理由を説明する必要がある。
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