建設業法令遵守ブログ

【建設業法】用語解説

建設工事における指値発注とは?建設業法をもとに解説

寺嶋紫乃

行政書士

寺嶋紫乃

行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業者向けの研修や行政の立入検査への対応、建設業者のM&Aに伴う建設業法・建設業許可デューデリジェンスなど、建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としている。

指値発注とは、どのような行為でしょうか。具体的な事例から建設業法の規定と照らし合わせ、指値発注の問題点を見ていきたいと思います。

指値発注とは

指値発注とは、建設業法令遵守ガイドラインによると「元請負人が下請負人との請負契約を交わす際、下請負人と十分な協議をせず又は下請負人の協議に応じることなく、元請負人が一方的に決めた請負代金の額を下請負人に提示(指値)し、その額で下請負人に契約を締結させること」をいいます。つまり、指値発注とは元請負人と下請負人が対等な立場にない状態で契約を締結することにつながる行為です。
そのため、建設業では指値発注を禁止しています。

事例①建設業法違反となるおそれのある行為

「元請負人が自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、一方的に提供、又は貸与した安全衛生保護具等に係る費用、下請代金の額を決定し、その額で下請契約を締結した場合」

この行為で問題となるのは、元請負人が下請負人と協議を行わず一方的に額を決定してしまったことです。一方的に決められた額が、下請負人にとって十分な額ではなかった場合、建設業法に違反するおそれがあります。
建設業法第19条の3では、不当に低い請負代金の禁止を規定しており、この規定に違反するおそれがあるということです。

建設業法第十九条の三(不当に低い請負代金の禁止)
注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

事例②建設業法違反となる行為Ⅰ

「元請下請間で請負代金の額に関する合意が得られていない段階で、下請負人に工事を着手させ、工事の施工途中又は工事終了後に元請負人が下請負人との協議に応じることなく下請代金の額を一方的に決定し、その額で下請契約を締結した場合」
この行為で問題となるのは、合意が無い状態で工事を始めていることと着工前契約ができていないことです。このケースを見ると、工事中や工事完了後、どの段階においても元請負人が協議に応じていません。先に見た事例①と同様、下請負人にとって元請負人が一方的に決めた額が十分ではないことが考えられ、建設業法違反のおそれがあります。
加えて、このケースでは工事の着工前に契約を締結していないことから、建設業法第19条(および建設業法令遵守ガイドライン)に違反します。

建設業法第十九条(建設工事の請負契約の内容)
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
(以下、省略)

建設業法令遵守ガイドライン2.書面による契約締結
契約書面の交付については、災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として下請工事の着工前に行わなければならない。

事例③建設業法違反となる行為Ⅱ

「元請負人が、下請負人が見積りを行うための期間を設けることなく、自らの予算額を下請負人に提示し、下請契約締結の判断をその場で行わせ、その額で下請契約を締結した場合」

この行為で問題となるのは、下請業者に十分な見積り期間を設定しなかったことと十分な協議を行わなかったことです。このケースを見ると、契約締結に関し、元請負人は下請負人に検討する余地を与えていません。このケースも先に見た事例①と同様、下請負人にとって元請負人が一方的に決めた額が十分ではないことが考えられ、建設業法違反のおそれがあります。
加えて、下請負人に見積りをまったくさせていないため、元請負人から提示された金額が妥当なものか下請負人には判断することすらできない状態にあります。見積り期間を十分設けていない行為は建設業法に違反します。

建設業法第二十条(建設工事の見積り等)
(第1項~第3項は省略)
4建設工事の注文者は、請負契約の方法が随意契約による場合にあつては契約を締結するまでに、入札の方法により競争に付する場合にあつては入札を行うまでに、第十九条第一項第一号及び第三号から第十六号までに掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までに、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な政令で定める一定の期間を設けなければならない。

建設業法施行令第六条(建設工事の見積期間)
法第二十条第四項に規定する見積期間は、次に掲げるとおりとする。ただし、やむを得ない事情があるときは、第二号及び第三号の期間は、五日以内に限り短縮することができる。
一 工事一件の予定価格が五百万円に満たない工事については、一日以上
二 工事一件の予定価格が五百万円以上五千万円に満たない工事については、十日以上
三 工事一件の予定価格が五千万円以上の工事については、十五日以上
(以下、省略)

まとめ

指値発注は、建設業法違反に繋がる行為です。日頃から適正な価格での請負契約が締結できるよう、指値発注に該当するおそれのある行為は行わないようにしましょう。