建設業法に違反した場合の制裁とは?違反事例と共に解説!
社員行政書士・東京事務所所長
大野裕次郎
建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。
制裁は罰則と監督処分の2種類
罰則
建設業法では監督処分とは別に、無許可営業や不正な手段による許可取得などに対する個人や法人に対する罰則も設けています。そのため、建設業法令違反をした場合には、刑罰を受けることもあります。違反行為の内容によって、懲役や罰金などの刑罰は異なるため、それぞれのケース(⑴~⑷)を確認しておきましょう。
⑴3年以下の懲役又は300万円以下の罰金(情状により、懲役及び罰金を併科)
建設業法の中で1番重たい罰則です。
例えば、無許可で建設業を営んだ場合や、虚偽申請をして建設業許可を受けた場合などが該当します。法人などで代表者や従業員等が違反行為をした場合は、違反行為をした者が罰せられるほか、法人に対しては1億円以下の罰金計が科されます。
■3年以下の懲役又は300万円以下の罰金となるケース(建設業法第47条)
① 許可を受けないで建設業を営んだ場合 ② 特定建設業許可を受けないで、特定建設業許可が必要となる下請契約を締結した場合 ③ 営業停止の処分に違反して建設業を営んだ場合 ④ 営業の禁止の処分に違反して建設業を営んだ場合 ⑤ 虚偽又は不正の事実に基づいて建設業許可又は認可を受けた場合 |
⑵6ヶ月以下の懲役又は100万円以下の罰金(情状により、懲役及び罰金を併科)
例えば、建設業許可の変更届出書を提出しなかった場合や、経営事項審査において虚偽申請をした場合などが該当します。法人などで代表者や従業員等が違反行為をした場合は、違反行為をした者が罰せられるほか、法人に対しては100万円以下の罰金計が科されます。
■6ヶ月以下の懲役又は100万円以下の罰金となるケース(建設業法第50条)
① 建設業許可申請書類に虚偽の記載をして提出した場合 ② 変更届出書類を提出しなかった場合、又は虚偽の記載をして提出した場合 ③ 建設業許可の基準を満たさなくなった旨の届出をしなかった場合 ④ 経営状況分析申請書又は経営規模等評価申請書に虚偽の記載をして提出した場合 |
⑶100万円以下の罰金
例えば、工事現場に主任技術者・監理技術者を置かなかった場合や国土交通大臣又は都道府県知事から報告を求められたときに報告をせず、又は虚偽の報告をした場合などが該当します。こちらの罰則も、法人などで代表者や従業員等が違反行為をした場合は、違反行為をした者が罰せられるほか、法人に対しては100万円以下の罰金刑が科されます。
■100万円以下の罰金となるケース(建設業法第52条)
① 主任技術者又は監理技術者を置かなかった場合 ② 専門技術者を置かなかった場合 ③ 許可取消処分や営業停止処分を受け、注文者に通知しなかった場合 ④ 経営事項審査において、登録経営状況分析機関又は許可行政庁から報告を求められ、報告をせずもしくは資料の提出をしなかった場合、又は虚偽の報告もしくは虚偽の資料を提出した場合 ⑤ 国土交通大臣又は都道府県知事から報告を求められ、報告をせず、又は虚偽の報告をした場合 ⑥ 国土交通大臣又は都道府県知事から検査を求められ、検査を拒み、妨げ又は忌避した場合 |
⑷10万円以下の過料
例えば、営業所に建設業許可の標識を掲示していない場合や、建設業法第40条の3に規定する帳簿を備え付けていない場合が該当します。なお、「過料」は違反者に対して、行政上の秩序を維持するために金銭的な制裁として科すもの(行政上の秩序罰)で、「罰金」とは異なり、刑罰ではありません。
■10万円以下の過料となるケース(建設業法第55条)
① 廃業等の届出をしなかった場合 ② 正当な理由なく調停の出頭の要求に応じなかった場合 ③ 建設業許可の標識を掲げなかった場合 ④ 無許可業者が建設業者であると誤認される表示をした場合 ⑤ 帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは帳簿に虚偽の記載をし、又は帳簿若しくは図書を保存しなかった場合 |
監督処分
監督処分とは、行政機関が行う制裁のことです。建設業法違反の場合の監督処分には「指示処分」「営業停止処分」「許可取消処分」の3種類あります。指示処分から許可取消処分へ順に重たい処分となります。
⑴指示処分
法令違反を是正するために監督行政庁である国土交通大臣や都道府県知事が行う命令のことです。国土交通大臣や都道府県知事は、建設業者が建設業法の規定に違反した場合などは必要な指示をすることができます。
⑵営業停止処分
国土交通大臣又は都道府県知事は、建設業者が建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼした場合など、もしくは指示処分に従わない場合は1年以内の期間を定めて、その営業の全部又は一部の停止を命ずることができます。
⑶許可取消処分
国土交通大臣や都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が建設業許可の基準を満たさなくなった場合などは当該建設業者の許可を取り消さなければなりません。
監督処分となる建設業法違反の事例
⑴指示処分の事例
商号又は名称 | C社 |
主たる営業所の所在地 | 福岡県 |
許可番号 | 福岡県知事許可(般-●)第●●●●号 |
許可を受けている建設業の種類 | 土、建 |
処分年月日 | 2023年12月20日 |
処分を行った者 | 福岡県 |
根拠法令 | 建設業法第28条第1項 |
処分の内容(詳細) | (1)今回の処分内容を、役職員に周知徹底すること。 (2)建設業法及び関係法令を遵守する組織体制を整えるとともに、社内教育を継続的に実施すること。 (3)建設業法及び同法施行規則で定める経営事項審査の有効期間が切れないよう、継続した経営事項審査の受審について業務管理を徹底すること。 (4)前記について講じた措置を速やかに文書をもって報告すること。 |
処分の原因となった事実 | C社は、川崎町発注の土木工事において、土木工事の許可が失効していたにもかかわらず、建設業法施行令第1条の2第1項に定める軽微な建設工事の範囲を超える請負契約を締結した。また、建設業法第27条の23第1項で規定する経営事項審査を継続して受審せず、同法施行令に定める建設工事を発注者から直接請け負うことができない期間が生じていたにもかかわらず、この間に川崎町が発注する土木工事の入札に参加し、請負契約を締結した。以上のことは、建設業法第3条第1項及び同法第27条の23第1項に違反する行為であり、同法第28条第1項第2号に該当する。 |
この事例は、土木工事の許可が失効していたにも関わらず、500万円以上の建設工事の請負契約を締結してしまった、及び、経営事項審査を受審していないにも関わらず、公共工事の入札に参加して請負契約を締結してしまったという事例です。
⑵営業停止処分の事例
商号又は名称 | H社 |
主たる営業所の所在地 | 岡山県 |
許可番号 | 国土交通大臣許可(般・特-●)第●●●●号 |
許可を受けている建設業の種類 | 土、建、大、左、と、石、屋、電、管、タ、綱、筋、舗、し、板、ガ、塗、防、内、機、絶、具、水、消、解 |
処分年月日 | 2023年11月28日 |
処分を行った者 | 中国地方整備局 |
根拠法令 | 建設業法第28条第1項(同条第11条第2号該当) |
処分の内容(詳細) | 1 停止を命ずる営業の範囲 ①全国の区域内における建設業に関する営業のうち、公共工事に係るもの。 ②全国の区域内における土木工事業及びとび・土工工事業に関する営業のうち、公共工事に係るもの。 (注1)「土木工事業に関する営業」とは、注文者から土木一式工事を請け負う営業をいう。 (注2)「とび・土工工事業に関する営業」とは、注文者からとび・土工・コンクリート工事を請け負う営業をいう。 (注3)「公共工事」とは、国、地方公共団体、法人税法(昭和40年法律第34号)別表第一に掲げる公共法人(地方公共団体を除く。)又は建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)第18条に規定する法人が発注者である建設工事をいう。2 期間 1①について 令和5年12月13日から令和6年1月26日までの45日間 1②について 令和6年1月27日から令和6年2月17日までの22日間 |
処分の原因となった事実 | H社は建設業法第26条の規定に違反して、資格要件を満たさない者を主任技術者及び監理技術者として、2名を8工事現場に配置していた。また、経営事項審査において、資格要件を満たさない者50名を複数年にわたり、技術職員名簿に記載し、虚偽の申請を行うことにより得た経営事項審査結果を公共工事の発注者に提出し、公共発注者がその結果を資格審査に用いた。これらのことが、28条第1項第2号に該当すると認められる。 |
この事例は、資格要件を満たさない者を監理技術者・主任技術者として配置してしまっていたという事例です。具体的な内容が書かれているわけではないので分かりませんが、おそらく「実務経験の不備」と考えられます。
⑶許可取消処分の事例
商号又は名称 | D社 |
主たる営業所の所在地 | 神奈川県 |
許可番号 | 神奈川県知事許可(特-●)第●●●●号 |
許可を受けている建設業の種類 | 土、と、管、舗、水 |
処分年月日 | 2023年12月26日 |
処分を行った者 | 神奈川県 |
根拠法令 | 建設業法第29条第1項第2号 |
処分の内容(詳細) | 建設業法第29条第1項に基づく建設業許可の取消し (土木工事業、とび・土工工事業、管工事業、舗装工事業及び水道施設工事業に係る特定建設業の許可の取消し) |
処分の原因となった事実 | 当該建設業者の取締役が、建設業法(昭和24年法律第100号)違反により、罰金50万円の刑に処せられ、令和5年10月14日にその刑が確定した。 |
その他参考となる事項 | 警察からの情報提供 |
この事例は、建設業法違反により罰金刑に処せられ、その結果、建設業許可の欠格要件(建設業法第8条第8号)に該当したことにより、許可取消処分を受けたという事例です。
まとめ
- 建設業法違反には「罰則」と「監督処分」という2種類の制裁がある
- 「罰則」は懲役や罰金などの刑罰である。
- 「監督処分」は行政機関が行う制裁である。
- 建設業法違反の場合の監督処分には「指示処分」「営業停止処分」「許可取消処分」の3種類がある。