建設業のM&Aの留意点
社員行政書士・東京事務所所長
大野裕次郎
建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。
建設業界におけるM&Aは、許認可の承継や法令遵守など、他業種とは異なる複雑な法的課題が伴います。特に、建設業許可の維持や承継に関する制度理解は、取引の成否に直結します。本記事では、建設業M&Aにおける主要な法的留意点を整理して解説します。
1.建設業許可の承継
建設業のM&Aにおいて最重要となるのが、建設業許可の承継です。建設業の許可は、国土交通省および都道府県知事の監督下で厳格に運用されており、株式譲渡や事業譲渡などM&Aによって許可が自動的に移転されるものではありません。買収や合併等を進める場合、許可の要件を満たしたうえで、許可承継の手続きをする必要があります。
許可の要件で特に注意したいものは次の2つです。
①経営業務の管理責任者
建設業者は「経営業務の管理責任者」を設置することが義務付けられています。経営業務の管理責任者には、5年以上の建設業の経営業務経験など、一定の実務経験が求められています。
M&Aにより、買収先に経営業務の管理責任者の要件を満たす人が不在となる場合、許可の承継・維持が困難になるため、事前にどのように手当てをするか検討する必要があります。
②営業所技術者等
建設業の営業所には、常勤の「営業所技術者(特定建設業許可の場合は「特定営業所技術者」)」を配置することが義務付けられています。営業所技術者等には、一定の国家資格や実務経験が求められます。営業所ごとに配置が求められているため、M&A後の本社・支店・営業所ごとに資格要件を満たす営業所技術者等を継続して配置することができるかを事前に確認することが重要です。
以上のように、経営業務の管理責任者や営業所技術者等の確保は、建設業許可の承継において最も重要なポイントであり、もし確保できない場合はM&Aを実行しても建設業許可を維持することができず、M&Aの意味がなくなります。そのため、M&Aに先立ち、組織体制や人員の適格性を慎重に検討する必要があります。
2.事業承継等の承継認可制度
建設業の事業承継やM&Aに際しては、建設業許可の「承継認可制度」が活用できる場合があります。承継認可制度は、令和2年10月に施行された改正建設業法によりスタートした建設業許可の円滑な承継を可能にする制度です。
承継認可制度とは?
承継認可制度とは、建設業の事業譲渡や合併、会社分割等により、許可を承継する場合に、事前に所管行政庁の認可を得ることで、旧会社から新会社へ許可をスムーズに移転できる仕組みです。これにより、事業承継後も空白期間なく継続して建設業許可を保有することが可能となります。認可申請は、譲渡・合併・分割等の効力発生日の30日前までに申請しなければなりません。
認可申請を行うことができるケース
企業において建設業許可の承継認可制度の対象となるケースは、以下のケースです。
- 事業譲渡
- 合併
- 会社分割
出典:国土交通省「建設業許可事務ガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk_000058.html
承継規定の対象外となるケース
一方で、承継認可制度が利用できないケースも存在します。
例えば、ある業種について、一般建設業の許可を受けている者が、同一業種で特定建設業の許可を有している者の地位を承継することはできません。

出典:国土交通省「3.⑵建設業者の地位の承継について」
認可制度は使わなくてもよい
建設業のM&Aでは、必ずしも承継認可制度を用いる必要はありません。認可制度を利用せずに許可の維持・取得を目指す方法も存在します。
例えば、株式譲渡による会社買収の場合、法人格自体が存続するため、許可は基本的にそのまま維持されます。ただし、役員交代や経営業務の管理責任者・営業所技術者等の交代がある場合、変更届を提出する必要があります。
また、国土交通大臣許可を取得している建設業者が都道府県知事許可業者を買収して存続会社となる場合、承継認可制度を使わなくとも、営業所開設の変更届を提出するだけで済むケースもあります。そのため、M&Aの計画段階から、許可要件の維持や変更届の手続きについて十分な検討が必要です。
なお、建設業許可の変更届や新規申請に関しては、国土交通省や各都道府県の窓口にて詳細なガイドラインが公開されており、手続き方法や必要書類について確認することをおすすめします。
出典:国土交通省「建設業許可申請・変更届ガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk_000058.html
3.M&Aに伴う法令遵守とリスク管理
建設業のM&Aでは、法令遵守とリスク管理が極めて重要な課題となります。許可の維持のみならず、過去の法令違反や監督処分の承継リスクにも対応が必要です。
建設業法違反による監督処分は承継される
建設業法違反による監督処分は、許可承継の際にも引き継がれる点に注意が必要です。例えば、承継元の建設業者が過去に建設業法違反行為を犯し、営業停止処分や指示処分を受ける場合、承継先の建設業者に監督処分がなされる場合があります。
引用:建設業法第28条
建設業法違反による監督処分は、単なる行政指導ではなく、営業停止や許可取消しなどの重大な影響を及ぼすため、M&Aのデューデリジェンスにおいては、過去の法令遵守状況を調査し、必要に応じてリスク対策を講じることが求められます。
4.まとめ
- 建設業のM&Aでは、許可の承継が最大の課題であり、経営業務の管理責任者や営業所技術者の適格性確認が必要。
- 承継認可制度を利用する際は、適用可否や申請手続きについて事前に確認することが重要。
- 承継認可制度を使わなくても許可維持が可能なケースもあるため、M&Aの形態に応じて適切な手続きを選択する必要がある。
- 建設業法令遵守とリスク管理はM&A成功の鍵、買収先の法務デューデリジェンスにより、許可取消しや営業停止などの監督処分を受けるリスクを回避することができる。
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