建設業法令遵守ブログ

【建設業法】用語解説

国土交通省の下請取引等実態調査とは?

大野裕次郎

社員行政書士・東京事務所所長

大野裕次郎

建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。

国土交通省が毎年実施している「下請取引等実態調査」は、建設業界における下請取引の現状や課題を明らかにするための重要な調査です。本調査は、元請・下請企業間における取引慣行や法令遵守状況を把握し、適正な取引環境の確立を図る目的で行われています。コンプライアンス対策やリスク管理を進める上で、調査結果やその分析が重要な参考情報となります。本記事では、調査の概要、目的、対象、具体的な調査項目について解説します。

1.下請取引等実態調査とは?

国土交通省が実施する「下請取引等実態調査」は、建設業界の下請取引に関する現状や課題を明らかにするため、毎年定期的に行われている調査です。この調査は、建設業法第24条の規定に基づき、元請・下請間の取引の適正化および法令遵守状況の把握を目的に実施されています。

建設業法第24条
「国土交通大臣は、建設業の健全な発達を図るため、建設業者に対し、報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、建設業者の事務所若しくは工事現場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。」

調査の主な内容は、下請代金の支払い状況や契約手続の適正性、法令遵守の実態など多岐にわたります。なお、調査は国土交通省が無作為に抽出した建設業者に対して行われ、調査票の送付・回収という形で実施されます。令和6年度の調査からはインターネットによる回答ができるようになりました前年度の調査結果は、毎年国土交通省のホームページ等で公表されており、建設業界全体の取引環境の現状把握や制度改正の検討材料として活用されています。

また、調査に応じることは建設業法上の義務であり、調査票への正確な記載と期限内の回答が求められます。企業規模や業種、元請・下請の立場を問わず、調査対象となった場合は誠実に対応することが求められます。特に近年はコンプライアンス強化の観点からも、調査結果を踏まえた社内体制の見直しが重要となっています。

出典:国土交通省「下請取引等実態調査について」

2.目的

下請取引等実態調査の主たる目的は、建設業における下請取引の適正化を促進し、取引に伴う諸問題の早期発見と是正につなげることです。建設業界は多重下請構造が特徴であり、元請・下請間の取引においては、契約内容の不明瞭さや下請代金の支払い遅延、不適切な契約解除など、多くの課題が存在しています。

調査の目的は以下のように整理することができます。

  1. 法令遵守状況の把握
    建設業法や下請代金支払遅延等防止法など、関連法令の遵守状況を確認することが主眼となっています。特に、契約書の作成・交付状況や下請代金の支払期日、適正な手続きが行われているかが注視されています。
  2. 不適正取引の早期発見・是正
    調査により、不適正な取引慣行や法令違反の可能性がある事例を抽出し、必要に応じて指導・是正を促します。これにより、業界全体の取引環境の健全化が図られます。
  3. 業界全体の実態把握と政策立案への活用
    調査結果は、今後の行政指導や法制度の見直し、各種ガイドラインの改訂に活用されます。政策担当者が現場の実態を把握することで、より実効性の高い施策を策定することが可能となります。
  4. 企業の自律的なコンプライアンス推進
    調査の実施により、各企業が自社の取引慣行や社内ルールを見直す契機となります。調査票記載の各項目は、法務担当者が自社のリスク管理体制を再確認する指標としても活用できます。

出典:国土交通省「建設業における下請取引の適正化に関する各種施策」

3.対象

調査の対象となるのは、日本全国の建設業許可業者のうち、国土交通省が無作為に選定した元請・下請企業です。ここでの「建設業許可業者」とは、建設業法第3条に基づき、国土交通大臣または都道府県知事の許可を受けて建設工事を請け負う事業者を指します。

建設業法第3条
「建設業を営もうとする者は、国土交通大臣又は都道府県知事の許可を受けなければならない。」

調査対象となる企業は、業種(建築・土木・設備等)や企業規模(資本金・従業員数等)を問わず、毎年変更されます。対象となった場合、調査票が郵送され、所定の期限までに記載・返送する義務があります。

さらに、調査は元請企業および下請企業の両方を対象にしています。これは、取引の全体像を明らかにするためであり、元請側・下請側双方からの情報を集約・分析することで、より正確な実態把握を可能としています。なお、調査結果は統計的に処理され、個別企業の情報が外部に公表されることはありません。

令和6年度の調査からは、インターネット調査が開始され、令和5年度まで調査対象業者数が12,000業者程度だったものが、令和6年度からは拡大され、30,000業者まで増加しました。令和7年度も30,000業者となっているため、今後も同程度の数が見込まれます。建設業者数は全国で約47万業者なので、毎年6%程度の建設業者が調査の対象となっていることになります。

4.調査項目

下請取引等実態調査の調査項目は、建設業法令遵守や適正取引の観点から多岐にわたります。主な項目は以下の通りです。

契約書の作成・交付状況

元請企業と下請企業の間で、工事請負契約書が適正に作成・交付されているかを確認します。建設業法第19条では、一定金額以上の請負契約については書面による契約書の作成が義務付けられています。

建設業法第19条
「建設工事の請負契約は、書面をもってしなければならない。」

調査では、契約書の有無、交付時期、記載内容の適正性(工期、代金、支払条件等)について詳細に問われます。

下請代金の支払状況

下請代金の支払い期日、遅延の有無、遅延利息の支払い状況などが調査されます。下請代金支払遅延等防止法(下請法)や建設業法第24条の3に基づき、下請代金の適正な支払いが求められています。

建設業法第24条の3
「建設工事の請負契約において、下請負人に対する請負代金の支払期日は…定めなければならない。」

不当契約解除・不当減額の有無

元請企業から下請企業への一方的な契約解除や、正当な理由なく下請代金を減額する行為についても調査対象となっています。これらの行為は建設業法や下請法で禁止されています。

その他の調査項目

  • 工期の設定・変更の適正性
  • 追加工事・設計変更時の契約手続き
  • 資材・機材の支給・貸与に関する取扱い
  • コンプライアンス体制・内部統制の整備状況

これらの項目を通じて、企業の取引慣行や法令遵守状況が多角的に把握されます。また、調査票の記載内容は、社内コンプライアンス体制の点検やリスク管理の指標として活用できます。

調査票のなかには取引の相手方である発注者や元請企業の商号等を記載する箇所もあり、下請企業が記載した内容を基に、元請企業に調査が入るということもあります。

出典:国土交通省「下請取引等実態調査票(例)」

5.まとめ

  • 下請取引等実態調査は建設業界の元請・下請間取引の適正化を目的とした国土交通省の重要な調査である。
  • 調査は無作為抽出された建設業許可業者に対して毎年実施され、法令遵守や取引慣行の実態を多角的に把握している。
  • 調査の主な項目は、契約書作成・交付、下請代金の支払状況、不当な契約解除・減額の有無、工期や追加工事の取扱い、社内コンプライアンス体制など。
  • 調査結果は、行政指導や制度改正、業界全体の健全化施策に反映。
  • 調査票が届いた場合は、期限内の正確な回答が建設業法の義務であり、調査内容を基に社内ルールや取引慣行を見直すことが期待されている。
  • 建設業法や下請法の条文、国土交通省や中小企業庁の公式情報を根拠とし、実態調査の意義と役割を理解することが重要。

出典:
国土交通省「下請取引等実態調査について」
国土交通省「建設業における下請取引の適正化に関する各種施策」
中小企業庁「中小企業・小規模事業者の定義」
国土交通省「建設業許可制度について」
国土交通省「下請取引等実態調査票(例)」

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