保守、改修、修繕、補修は、建設工事に該当するの?


社員行政書士・東京事務所所長
大野裕次郎
建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。
建設工事を請け負う場合は建設業法の適用を受けることになるため、建設工事に該当するか否かの判断は重要です。行政書士法人名南経営へのご相談でも「保守や改修は建設工事に該当するか?」というご相談内容が少なくありません。今回は、「保守」「改修」「修繕」「補修」について、建設工事に該当するか解説をしたいと思います。
建設工事の定義
建設業法において、「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上覧に掲げるものをいう、とされています。別表第一の上覧に掲げる工事とは、土木一式工事と建築一式工事からなる2種類の一式工事及び大工工事、左官工事等の27種類からなる専門工事を指しています。
建設工事の定義及び建設工事の該非判断の方法については、こちらの記事をご覧ください。
https://gyousei-meinan.com/blog/2327/
建設業法の建設工事の定義に該当するものを請け負う場合は、建設業許可制度をはじめとする建設業法の各種規定を遵守しなければならないため、建設工事の定義は非常に重要です。
保守、改修、修繕、補修の定義
国土交通省の資料によれば、保守、改修、修繕、補修のそれぞれの定義は次のとおりです。
用語 | 定義 | 具体例 |
保守 | 点検の結果に基づき建築物等の機能の回復又は危険の防止のために行う消耗部品の取替え、注油、塗装その他これらに類する軽微な作業を行うこと。 | ・汚れ、詰まり、付着等がある部品又は点検部の清掃 ・取付け不良、作動不良、ずれ等がある場合の調整 ・ボルト、ねじ等で緩みがある場合の増締め ・消耗部品(潤滑油、ランプ、パッキン等)の交換又は補充 ・接触部分、回転部分等への注油 ・軽微な損傷がある部分の補修 ・塗装(タッチペイント) |
改修 | 劣化した建築物の機能・性能を当初の性能水準以上に改善すること。 | ・耐震改修 ・バリアフリー対応のための共用部分の改修 ・劣化した設備機器を高効率な設備機器・システムへ更新 |
修繕 | 建築物の機能・性能を当初の性能水準まで回復させること。 | ・外壁タイルの全面的な張替 ・設備配管等の部分的な撤去・改設 |
補修 | 建築物の機能・性能を実用上支障のない状態(許容できる性能レベル)まで回復させること。 | ・外壁コンクリートの部分的なひび割れ・亀裂の補修 ・ポンプのベアリング不具合による交換 ・空調機の制御基板の交換 |
出典:国土交通省大臣官房官庁営繕部「国家機関の建築物等の保全の現況」を引用して加工 https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001728930.pdf
保守、改修、修繕、補修は建設工事に該当するか
上表の定義だけでは建設工事に該当するかどうか判断しづらいですが、具体例を見ると分かりやすいと思います。「保守」に関しては、「汚れ、詰まり、付着等がある部品又は点検部の清掃」「取付け不良、作動不良、ずれ等がある場合の調整」「ボルト、ねじ等で緩みがある場合の増締め」など、明らかに建設工事には該当しないものが含まれています。「改修」「修繕」「補修」の具体例は、概ね建設工事として判断してよいと思います。
他に、建設業許可事務ガイドライン(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001860019.pdf)も参考になります。「2.許可業種区分の考え方について」の電気通信工事の考え方に「保守」「改修」「修繕」「補修」という言葉が出てきます。
(18)電気通信工事
① 既に設置された電気通信設備の改修、修繕又は補修は『電気通信工事』に該当する。なお、保守(電気通信施設の機能性能及び耐久性の確保を図るために実施する点検、整備及び修理をいう。)に関する役務の提供等の業務は、『電気通信工事』に該当しない。
これを読むと、「改修、修繕又は補修は『電気通信工事』に該当する」との説明と、「保守に関する役務の提供等の業務は、『電気通信工事』に該当しない」との説明があります。「保守」は建設工事に該当しないと読み替えてもよさそうです。
さらに、茨城県の建設業許可の手引きにも「保守」に関する記述がありますので、確認しておきます。
出典:茨城県「建設業許可の手引き」https://kennsetugyou-ibaraki.jp/wp-content/uploads/2022/10/02-許可の手引き-許可について.pdf
茨城県の建設業許可の手引きには、「建設工事」に該当しないものとして「保守点検」と明確に記載されています。
ここまで見てきた資料から考えると、「保守」については、建設工事に該当しない可能性が高そうです。ただ、契約書に「保守」という言葉が使われていることをもって、「建設工事に該当しない」と判断することはできません。実態として、建設工事が含まれるかどうかを判断する必要があります。
まとめ
- 定義は次のとおり。
保守:点検の結果に基づき建築物等の機能の回復又は危険の防止のために行う消耗部品の取替え、注油、塗装その他これらに類する軽微な作業を行うこと。
改修:劣化した建築物の機能・性能を当初の性能水準以上に改善すること。
修繕:建築物の機能・性能を当初の性能水準まで回復させること。
補修:建築物の機能・性能を実用上支障のない状態(許容できる性能レベル)まで回復させること。 - 「改修」「修繕」「補修」は、概ね建設工事に該当すると考えられる。
- 「保守」は、建設工事に該当しない可能性が高い。しかしながら、言葉だけで判断するものではなく、実態として、建設工事に該当する作業が含まれるかどうかで判断する必要がある。
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