建設工事の注文書の電子化は建設業法上OK?印紙は不要?
社員行政書士・東京事務所所長
大野裕次郎
建設業に参入する上場企業の建設業許可取得や大企業のグループ内の建設業許可維持のための顧問などの支援をしている。建設業者のコンプライアンス指導・支援業務を得意としており、建設業者の社内研修や建設業法令遵守のコンサルティングも行っている。
近年、デジタル化の波が建設業界にも押し寄せており、業務の効率化やコスト削減を目指して、さまざまな取り組みが進められています。その中でも特に関心を集めているのが、建設工事の請負契約の電子化だと思います。今回は、請負契約の電子化のなかでも、特に注文書の電子化及びその印紙の取扱いについて詳しく解説します。
1.建設業法における注文書の役割
建設業法では、建設工事の請負契約の当事者は、必要事項を記載した書面に署名又は記名押印をして相互に交付しなければならないとされています。
(建設工事の請負契約の内容)
第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
~以下省略~
書面による請負契約の締結の具体的な方法としては、次の3つの方法が挙げられます。
- 請負契約書を取り交わす方法
- 基本契約書を取り交わし、注文書・請書を交付する方法
- 注文書・請書のみを交付する方法
建設業法上は、請負契約書だけでなく、注文書・請書を交付する方法でも認められています。ただし、注文書のみの交付や請書のみの交付では建設業法違反となりますので注意が必要です。注文書を交付する場合は必ず請書も交付しなければなりません。
契約とは、当事者の一方から「申込」を行い、相手方が「承諾」をすることで成立します。請負契約書では、注文者・請負人の双方が署名又は記名押印をするため、「申込」と「承諾」という意思表示の合致を確認することが可能です。
注文書は注文者の「申込」の意思表示にあたり、請書が請負人の「承諾」の意思表示にあたります。そのため、いずれか一方のみでは、「申込」と「承諾」という意思表示の合致を確認することができませんので、注文書・請書の両方が必要とされています。
2.注文書は電子化できる?
上述のとおり、注文書は、建設工事の請負契約において重要な役割を果たします。請負契約書と同等であり、建設業法上、注文書の電子化が認められています。
(建設工事の請負契約の内容)
第十九条
~中略~
3 建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。
3.注文書電子化のメリット
注文書を電子化する主なメリットは次の3点です。
- 業務の効率化
- 保存場所の削減
- コストの削減
請負契約を電子化した場合、システム上で全ての手続きを簡潔することができるため、注文書を印刷、押印、郵送する作業が不要となり、業務の効率化を図ることができます。注文書は、紙ではなく電子データで保存することとなるため、保存場所を削減することが可能です。電子データですので、過去の注文書を探す場合など検索がしやすいというメリットもあります。さらに、注文書を相手方に郵送するということが無くなるので、郵送代が不要となるうえ、業務の効率化により人件費等のコストも削減されることとなります。
4.注文書の電子化に伴う印紙税の取り扱い
印紙税法では、一定の契約書類に対して印紙を貼付することが義務付けられており、建設工事の請負契約に関する書面は、印紙税額一覧表の第2号文書「請負に関する契約書」に該当し、印紙の貼付が必要です。
実は、注文書には印紙の貼付は必要とはされていません。
印紙税法上の「契約書」とは、印紙税法別表第一の「課税物件表の適用に関する通則」の5において、「契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。」と規定されています。そのため、注文書ではなく、請書には印紙の貼付が必要となります。
しかし、これらの話はあくまで書面で請書を発行した場合の話です。電子データで請書を作成し、相手方に交付する場合は、印紙を貼付する必要はありません。
紙で注文書・請書を交付する場合は、注文書ではなく請書に印紙の貼付が必要で、電子データで注文書・請書を交付する場合は、注文書にも請書にも印紙の貼付は不要です。つまり、注文書は紙であろうと電子データであろうと印紙は不要ということです。
5.まとめ
- 業務の効率化やコスト削減を目指して、建設工事の請負契約の電子化が進められている。
- 建設業法では、請負契約の当事者は必要事項を記載した書面を相互に交付することが求められており、注文書・請書での契約も可能。
- 建設業法上、請負契約書、注文書・請書の電子化が認められている。
- 業務の効率化、保存場所の削減、コストの削減が電子化の主なメリットである。
- 電子データで注文書・請書を交付する場合、印紙の貼付は不要。
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