建設業法令遵守ガイドラインとは?建設業法を基に解説
行政書士
片岡詩織
行政書士法人名南経営(愛知県名古屋市)の所属行政書士。建設業許可をはじめとする各種許認可手続きを担当し、担当件数は年間200件を超える。建設業者向けの研修や建設業者のM&Aに伴う建設業法・建設業許可のデューデリジェンスなど、建設業者のコンプライアンス指導・支援業務にも携わっている。
建設工事において建設業者が守らなければならないルールは建設業法で定められていますが、法律を読むだけでは遵守すべきルールを具体的に知ることはできません。法律をわかりやすく、具体例をもって解説している「建設業法令遵守ガイドライン」について、どのような内容が記載されているのか、わかりやすく解説していきます。
建設業法令遵守ガイドラインとは
建設業法令遵守ガイドラインとは、請負契約の締結や発注者・元請負人・下請負人の関係に関して、建設業法を基に具体的な注意すべき違反事例を国土交通省がまとめた文書です。このガイドラインを読めばどのような取引が違法な下請となるのか理解することができます。
建設業法令遵守ガイドラインは2種類あります。
・元請負人と下請負人間における建設業法令遵守ガイドライン
・発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン
今回は、「元請負人・下請負人間における建設業法令遵守ガイドライン」をもとに、重要な12のルールについて解説していきます。
下請負人との関係で特に注意すべき12項目
見積条件の提示
①見積条件の内容
下請と請負契約を締結する場合には、下請へ見積の依頼を行います。ガイドラインでは、見積の依頼の際、工事の内容や契約条件を、具体的に示さなければならないと定められています。元請が下請に示すべき見積条件は、工事内容や工期、代金の支払時期や方法等の全15項目です。
②見積期限の設定
元請は下請への発注予定価格に応じて、見積を行うために必要な一定の期間を設けなければならないとされています。
予定価格500万円未満 → 1日以上
予定価格500万円以上5,000万円未満 → 10日以上
予定価格5,000万円以上 → 15日以上
見積条件の提示について、詳しくは「【建設業法令遵守ガイドライン】見積条件の提示」をご確認ください。
書面での契約
①工事の着工前契約
建設工事の請負契約は、必ず工事の着工前に書面で行わなければなりません。口頭のみで契約を行うことは、建設業法で禁止されています。
請負契約の締結時期について、詳しくは「契約前の建設工事の着手は違法?建設業法をもとに解説」をご確認ください。
②契約書の記載事項
建設工事の請負契約を締結する場合には、必ず工事内容や請負代金の額、工期などの全16項目をすべて記載した契約書で契約を行わなければなりません。
契約書の記載事項について、詳しくは「建設業法における契約書のルールとは?」をご確認ください。
③追加工事等に伴う追加・変更契約
当初契約の内容から工事が追加・変更された場合には、追加・変更工事分の変更契約を締結しなければなりません。また、天災等により工期を延長しなければいけない場合や長期にわたる工事で材料の価格高騰が生じ請負金額の見直しをすべき場合等、当初契約の内容に変更を生ずる場合にも変更契約を締結する必要があります。
変更契約について、詳しくは「契約の内容に変更が生じた場合に変更契約は必要なのか?建設業法をもとに解説」をご確認ください。
工期の設定
通常必要と認められる期間と比べて、著しく短い期間を工期とする請負契約を締結することは禁じられています。これは長時間労働を前提とした短い工期での工事は、事故の発生や手抜き工事にもつながる恐れが懸念されているためです。
例えば、発注者からの早期の引渡しの求めに応じるため、下請負人に対して一方的に下請工事を施工するために通常よりもかなり短い期間を工期とする下請契約を締結した場合は建設業法に違反するとされています。
著しく短い工期については、詳しくは「建設業法第19条の5「著しく短い工期の禁止」他解説」をご確認ください。
不当に低い請負代金
元請が下請に工事を発注する際に、元請の強い立場を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない、不当に低い請負代金で発注することは、禁止されています。
例えば、元請負人が自身の予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、下請負人による見積額を大幅に下回る額で下請契約を締結した場合は建設業法に違反するとされています。
不当に低い請負代金について、詳しくは「【建設業法令遵守ガイドライン】不当に低い請負代金」をご確認ください。
適切な工期の確保
原材料費等の高騰や納期遅延が発生している場合には、取引価格を反映した適正な請負代金の設定や納期の実態を踏まえた適正な工期の確保のため、請負代金及び工期の変更に関する規定を設定し、運用しなければならないとされています。
例えば、原材料費、労務費、エネルギーコスト等の高騰や資材不足など当事者双方の責めに帰さない理由により、施工に必要な費用の上昇、納期の遅延、工事全体の一時中止、前工程の遅れなどが発生しているにもかかわらず、追加費用の負担や工期について元請負人が下請負人からの協議に応じず、必要な変更契約を行わなかった場合は、建設業法に違反するとされています。
指値発注
指値発注とは、元請と下請が十分な協議をせず、または下請の協議に応じること なく元請が一方的に決めた請負代金で下請と契約を行う行為です。これは元請と下請が対等な立場にない状態で契約を締結することにつながる可能性があり、建設業法に違反する恐れがあるとされています。
指値発注について、詳しくは「建設工事における指値発注とは?建設業法をもとに解説」をご確認ください。
不当な使用機材等の購入強制
「不当な使用資材等の購入強制」とは、請負契約の締結後に「注文者が、自己の取引上の地位を不当に利用して、請負人に使用資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを請負人に購入させて、その利益を害すること」をいいます。
例えば、下請契約の締結後、元請負人が下請工事に使用する資材又は機械器具等を指定、あるいはその購入先を指定した結果、下請負人は予定していた購入価格より高い価格で資材等を購入することとなった場合には、建設業法に違反するとされています。
やり直し工事
下請工事の施工完了後に、やむを得ず元請負人が下請負人に対して工事のやり直しを依頼する場合には、下請負人に責任がある場合を除き、やり直し工事に必要な費用は元請負人が負担しなければなりません。また下請負人に責任のないやり直し工事を依頼する場合には、元請負人と下請負人の間で変更契約を締結する必要があります。
下請負人に責任がないも関わらず、やり直し工事に係る費用を一方的に下請負人に負担させることは建設業法違反となる可能性があります。
ここでいう「下請負人に責任がある場合」とは、契約書面に明示された内容と異なる場合又は下請負人の施工に瑕疵等がある場合に限られます。
赤伝処理
赤伝処理とは、元請が下請代金の支払い時に次のような諸費用を差引く(相殺する)行為をいいます。
①一方的に提供・貸与した安全衛生保護具等の費用
②下請代金の支払に関して発生する諸費用(下請代金の振り込み手数料等)
③下請工事の施工に伴い、副次的に発生する建設副産物の運搬処理費用
④上記以外の諸費用(駐車場代、弁当ごみ等のごみ処理費用、安全協力会費等)
赤伝処理自体が直ちに建設業法上の問題となることはないが、赤伝処理を行うためには、その内容や差引く根拠等について元請と下請双方の協議・合意が必要です。合意のない赤伝処理は禁止されています。
赤伝処理について、詳しくは【建設業法令遵守ガイドライン】赤伝処理(https://gyousei-meinan.com/blog/2310/)をご確認ください。
下請代金の支払
①支払期日
<支払いルール1>
工事の出来形部分に対する支払いを受けたときや完成後の支払いを受けたときには「支払を受けた日から1月以内、かつ、できる限り短い期間内」に下請代金の支払いを行わなければならないとされています。
<支払いルール2>
元請負人が特定建設業者であって下請業者が一般建設業者かつ法人であれば資本金額が4,000万円未満の建設業者のときには、「工事の請負代金の支払の有無に関わらず、下請業者が引渡の申し出を行った日から50日以内、かつ、できる限り短い期間内」に下請代金の支払いを行わなければならないとされています。
元請負人が特定建設業者のときには、支払いルール1及び2を遵守し、下請代金の支払いは1または2のいずれかの早い日付で行う必要があります。
支払期日について、詳しくは「【建設業法令遵守ガイドライン】下請代金の支払~支払保留・支払遅延」をご確認ください。
②支払手段
下請代金の支払いはできる限り現金で行い、少なくとも下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならないとされています。
支払手段について、詳しくは「【建設業法令遵守ガイドライン】下請代金の支払い~下請代金の支払方法」をご確認ください。
長期手形
長期手形とは、金融機関による割引を受けることが困難である手形期間が120日を超える手形のことをいいます。元請負人が特定建設業者であり下請負人が資本金4,000 万円未満の一般建設業者である場合には、このような長期手形で下請代金の支払いを行うことは禁止されています。
なお、長期手形と認められる手形期間は、令和6年11月1日より60日へ短縮を予定されております。
長期手形について、詳しくは「【建設業法令遵守ガイドライン】長期手形」をご確認ください。
帳簿の備付及び保存
建設業者は営業所ごとに、営業に関する帳簿を備付け、5年間保存する必要があります。また元請として工事を請け負った場合には営業に関する図書を10年間保存する必要があります。
帳簿について、詳しくは「建設業法における書類の保存期間と書類の種類や管理方法について解説!」でご確認ください。
請負契約を締結するすべての建設業者が対象
これらの建設業法上のルールは、発注者から工事を請け負う(元請負人となる)建設業者だけでなく、請負契約を締結するすべての建設業者に適用されます。つまり下請業者として工事を請け負った場合であっても、これらの建設業法上のルールをしっかりと把握しておくことが大切です。
まとめ
「建設業法令遵守ガイドライン」では、法令を読んだだけではわかりづらい、建設業法上の様々なルールについて具体例を基に分かりやすく解説しています。自社の業務形態が建設業法違反の状態となってしまっていないか、ガイドラインを活用して確認してみるようにしましょう。